大手私鉄の両運転台車
 一両だけで運行できる単行電車は地方私鉄など比較的輸送力の小さな私鉄ではそれなりに重宝されて活躍をしていて、かつての大手私鉄でも区間運行用や増結 用などで活躍をしました。 現在では大手私鉄には営業用としては現存しておらず、かつては準大手、現在は中規模私鉄の神鉄1070形がわずかに存在しますが、これも1両の単体では運 用されておらず、あくまで増結用として製造され運用しています。 新性能車登場後に鉄道線に在籍していた営業用単行車両は旧性能車としては、京急230形や300形、東急3000系列、相鉄2000形、名鉄800系など の一部AL車、京阪1000系、1300系、阪急900系、100系、近鉄6411形、5300形、南海1201形、阪神851形までの小型車群、西鉄1 00形、200形、300形が存在します。こうした戦前や戦後まもなくまでに登場した旧性能両運転台車は、登場時には単行 で運用された場合もありましたが、末期には主に増結運用が主体となり、阪急や近鉄のように片方の運転台を撤去した例も存在します。これは戦前は大都市間輸 送でも日中は1〜2両でも十分に運用に就くことができたためですが、戦後の高度経済成長によって車両増強、編成増大が進み長い編成を組める車両の需要が大 きくなり、単行車本来の運用はだんだんと狭まるようになりました。しかし両運転台車はそのどちらにも運転台がある点を活かして増結車として活路を見出した り、爆発的な需要の増大でとにかく使える車両が必要という点から、片方の運転台を撤去するなどして新性能車登場後も旧性能両運転台車の一部は活躍を続けて いきました。
 新性能車が登場した後にはあまり両運転台車は生産されませんでしたが、それでも京阪1900系と阪神青胴車5101形、赤胴車3301形、そして足回り は吊り掛けですが南海にて新性能車登場後に営業用両運転台車1521系、神鉄1070形が登場しています。これらのうち京阪と阪神、神鉄は1両単位で増解 結できるようどちらにも運転台を設けて自由度を高めたもので、京阪1900系は単行で営業運転を行った事績は無いようです。阪神も同じように増解結の自由 度を増すための両運転台車ですが、赤胴車3301形は単行運転が可能な車両性能を買われて、後に短区間の支線である武庫川線に単行で投入されています。神 鉄1070形もラッシュ時の増結用としての役割がありますが、最近では日常的に3両組成の編成に連結されていたりします。南海の1521系は登場時には両 運転台車は存在しませんでしたが、支線運用に転用された際に一部が改造されて両運転台車となって輸送密度の低い運用に投入されました。このため単行運転目 的に両運転台となったのは南海だけとなる、と言えるでしょう。ちなみに国鉄/JRの両運転台型電車は意外と少なく、国鉄時代は新性能車での新造は旅客車で は無し、荷物車や郵便車、牽引車などの事業用車にのみ存在していました。しかし国鉄末期にこうした荷物車や牽引車を単行用旅客車に改造したクモハ123が 登場しましたが、基本的に国鉄では新性能車は2両で1つのユニットを組む方式を採用していたのと、ワンマン運転を原則として行わなかったので単行用電車を 導入しなかったものと思われます。クモハ123が登場する少し前に2両ユニットを組まず1Mで運行できる105系が登場しましたが、この105系から両運 転台車の派生車が登場することはなく、安全性のためか2両以上での運用を捨てませんでした。
 結局国鉄時代には改造車のクモハ123のみでしたが、JRになってからも両運転台車を新造してまで増やすということは積極的ではなく、新造車はJR西日 本の125系とJR四国の7000系、改造車でクモハ84、クモハ119−100番台に留まっています。これらは閑散区間での運転効率向上を目的として改 造されましたが、余剰となった車両を使って運用を増やそうとしたもので、クモハ84はJR西日本が国鉄から継承したクモニ83荷物電車を旅客車化して宇野 線に投入し、クモハ119−100番台は3両組成だった編成を2両化して余剰となったクモハを両運転台化したもので、前者は種車の流用、後者は半端となっ た車両の活用で両運転台化されており、必ずしも1両での運用に拘って生まれたものではないものといえるでしょう。
 また余談ではありますが、東急5000系(初代)や7200系のように地方私鉄に譲渡された時に両運転台化される場合もあります。これは利用客の少ない 譲渡先の実情に合わせて改造を施したものですが両系とも、個性的な既設運転台と中間妻面に最低限の装備を取り付けて運転台化した新設側とのギャップが大 きったりとバリエーションとしては面白いと思いますが、おそらく大手私鉄内使用するためにこうした改造を行う場合には、もっと本格的な既設側に合わせるよ うな改造を行なうのではないかと思われます。
 このように規模の大きな大手私鉄では様々な車種が存在する割には両運転台車が活躍する場は少ないように思われます。おそらくは単行車なので故障に対して の冗長性に欠けるのと、単行車で間に合うような規模の路線は少ないというのが単行車を導入していない理由だと思われます。実在の大手私鉄に照らし合わせる と、過去に登場した形式が現在でも増結用として活躍していたり、支線の運用で細々と運行していたりとしつつも後継者には恵まれないという、少々寂しいもの となってしまいます。どうしても理屈付けるなら、建築限界や終着駅の踏切の関係で1両でしか運行できないとか、朝ラッシュ時には本線での増結運用に従事し て、日中には支線での封じ込め運用に就くといった二面の性格を持った車両として活躍させるというやり方もあるでしょう。現実には大規模鉄道会社でほとんど 導入されていない両運転台車もまったく不自然な存在とはいえないので、上手に自然な理由をつけて運行させるもの悪くないものだと思います。ラッシュ時の増 結運用に就く場合、前パンを先頭にして本線運用に就かせるのも一興ですし、、ラッシュ運用から支線運用に切り替える際に変わった運用を設定するというのも 面白いでしょう。またラッシュの時間帯に抜けている支線では2両組成の編成あるいはそれ以上の長い組成の編成を入れておくというのも興味深いですし、クロ スシートの考察でも書いたような2扉クロスシート車が入れ替わりで支線に入線させて運用に就かせているというのも大いに有りだと思います。